第8神経とは

めまいとは…

めまいとは、自分や周囲のものが動いていないのに、動いているように感じる、錯覚ないしは異常感覚をさします。

一般には、耳からくるメニエール病が代表選手のように思われていますが、実際のところ原因はさまざまです。内耳、脳、心臓をはじめ、めまいの原因は全身にわたり、生活習慣病やストレス、騒音、毛染め液の使用なども引き金となります。なかには、脳血管障害や心疾患など、めまいの陰に重大な病気が隠れていることも少なくありません。めまいは神が知らせてくれる生命維持への黄信号であり、あまく見るのは危険です。めまいの原因が体のどこにあるのか、正しい診断と適切な治療が克服への第一歩となります。

1:めまいの5つのタイプ
2:耳からくるめまい
3:脳からくるめまい
4:全身症状からくるめまい
5:こんなこともめまいの原因に?
6:医師選びのポイント
7:めまいの急性期の治療
8:めまい慢性期の治療
9:カクテル療法
10:中耳腔注入療法(鼓室内注入療法)
11:生活改善のポイント

めまいの5つのタイプ

めまいの症状や表現のしかたは人によって異なりますが、大きく分けると5つのタイプがあります。ご自身のめまいを知るうえでの参考にしてください。

ただし、めまいのタイプだけでは病名まで診断することはできません。たとえば回転性のめまいでも、命にかかわるものからそうでないものまで千差万別です。めまいに関して「絶対」はありえず、竹を割ったようにスパッと答えを出すことなどできないのです。よく、チャート式にたどれば「危ないめまい」か「安心なめまい」かがわかるとする本や、「回転性のめまいは耳の病気、非回転性のめまいは脳の病気」と断言する本がありますが、これには惑わされないようにしてください。

1.回転性のめまい

自分や周囲の物がグルグル回って見えるような感覚のめまいです。症状の程度が強いために、吐き気が起こり、直立や歩行でさえ苦痛となります。

このタイプには、自発性と誘発性の2つがあります。自発性の回転性めまいは、自分が動いていないのに、自分や周囲のものがグルグル回っているように感じるタイプです。一方、寝返りや体を起こした際など、急に姿勢を変えたときに生じるめまいもあり、これを誘発性のめまいと呼びます。

2.浮動性のめまい

体がフワフワと不安定に浮かぶような感じのめまいです。「体が宙に浮く感覚」「船に乗っているよう」「頭がフワーッと浮かぶ感じ」など患者さんの表現はさまざまです。このタイプは、耳でも脳でも左右とも、あるいは脳の真ん中に病変が起こったときに多くなります。そのうち、耳からくるフワフワ感はジャンブリング現象と呼ばれ、脳からくる浮動性めまいは仮性ダンディ症候とも呼ばれます。

なお、回転性めまいがくりかえされ、病変が古くなった場合にも浮動性のめまいは現れます。

3.動揺性めまい

体がユラユラ揺れるような感覚のめまいです。歩いているときに足元がふらついたり、イスに座っているのにクラクラしたりします。

動揺性のめまいは、耳や脳が左右同時に病気に冒された場合に生じます。また、回転性めまいを起こしたあと、症状が慢性期に入った際にもしばしば現れるタイプのめまいです。

4.眼前暗黒発作と失神発作

眼前暗黒発作とは、目の前が真っ暗になるタイプのめまいです。その中でも、力が抜けて倒れてしまうようなめまいを脱力発作と呼びます。眼前暗黒発作には、突然起こる自発性のものと、何かの動作をきっかけに起こる誘発性のものがあります。

一方、失神発作とは、だいたい一分以内の短い時間、一時的な意識喪失を起こすめまいです。かつて東北地方で「いっとき中気」と呼ばれたものがこれにあたります。

5.一過性、反復性(交代性)動揺視

動揺視とは、ものが揺れて見える状態をさします。これもめまいの一種です。後頭蓋窩の髄膜種や真珠腫、動静脈奇形などの病気によりしばしば起こるので、こうした症状が現れた場合にも注意してください。心臓血管系の疾患、心房や心室の細動など、循環系の疾患が原因になるケースも非常に多くなっています。

耳からくるめまい

めまいの原因は全身にわたりますが、主には耳からくるものと脳からくるものがあります。

耳は聴覚をつかさどる感覚器であるとともに、体の平衡感覚を保つという重要な役割も担っています。その平衡器として働いているのが、耳の最奥にある内耳の前庭迷路です。

耳からくるめまいの特徴は、85~90%が耳鳴り・難聴とセットになって現れることです。内耳は、前庭迷路とともに聴覚器である蝸牛によって構成されています。この蝸牛と前庭迷路は、わずか一立方センチメートルにもみたない狭い空間に隣り合って位置し、お互いが結ばれています。しかも内耳と脳をつなぐ神経は、蝸牛から出ている蝸牛神経(聴神経)と、前庭迷路から出ている前庭神経とで構成されています。こうした構造上の問題から、内耳に病変が起こると、聴覚と平衡感覚が一緒に乱れやすくなるのです。

耳からくるめまいには、主に以下のような病気があります。
•メニエール病
•レルモワイエ症候群
•突発性難聴
•急性迷路機能廃絶症
•良性発作性頭位眩暈症
•前庭神経炎
•内耳炎
•聴神経腫瘍
•音響外傷
•振動障害
•薬物中毒

脳からくるめまい

脳の働きが障害されると、多くの場合、めまいが生じます。近年とくに多いのは一過性脳虚血発作。脳の血管が一時的につまり、回転性のめまいに襲われるという症状です。めまいが激しく、発作時は大変つらい思いをしますが、数時間で治まってしまうために深刻に考えない患者さんが大半です。しかし、このめまいは脳出血や脳梗塞など重大な脳血管障害の前触れと考えてください。一過性のうちに適切な治療を始めることが、より重大な梗塞発作を防ぐうえで何よりも重要です。メニエール病などの内耳疾患と間違われやすい疾患ですが、一過性脳虚血発作の場合、耳なりや難聴などの症状をともなわないことが診断のポイントになります。

また、運動の監視装置である小脳、生命センターである脳幹は、体のバランスを保つうえでとくに重大であり、これらに小さくても異変が生じると、不快なめまい症状に襲われることになります。

脳からくるめまいには、主に以下のような病気があります。
•一過性脳虚血発作
•動脈硬化症
•脳出血
•脳梗塞
•椎骨脳低動脈循環不全
•脳腫瘍
•悪性発作性頭位眩暈症
•仮性良性発作性頭位眩暈症
•頭部外傷
•むち打ち症
•脊髄小脳変性症
•仮性ダンディ症候
•中脳水道周辺症候群

全身症状からくるめまい

めまいの発症は血圧とも深くかかわっています。

たとえば、回転性のめまいは低血圧が関係するケースが少なくありません。メニエール病や突発性難聴の一部、良性発作性頭位眩暈症などの内耳疾患の患者さんの多くは低血圧ですし、一過性脳虚血発作も低血圧の人に珍しくありません。

一方、高血圧からくるめまいは、自分がフワフワするとか、見るものがチラチラするタイプが多くなります。高血圧の人は、降圧剤の服用を誤ると激しいめまいに襲われたり、脳梗塞を起こしたりすることがありますから、注意が必要です。

また、高脂血症や糖尿病などの生活習慣病もめまい発作を招きますし、虚血性心疾患など心臓の病気によってもめまいは現れます。

こんなこともめまいの原因に?

めまいを起こす原因はさまざまですが、最近の傾向としては、音響外傷によるめまいが増えています。コンサートやライブ、パチンコなど大音量の鳴り響く室内に長時間いつづけ、その場から出たあと、めまい・耳鳴り・難聴に襲われたといって耳鼻科へやってくる人が珍しくなくなりました。イヤホンやヘッドホンの長時間の利用や携帯電話での長電話なども、めまい・耳鳴り・難聴の原因になります。いずれも強い音圧を長く受けたことによって内耳が損傷した結果です。

また、毛染め液もめまいの原因になることがあるので、使用には慎重になるべきです。毛染め液にはアニリン色素という染料成分の誘導体が含まれています。アニリン色素は頭皮内、つまり脳にしみ込みやすい性質があり、その際、最も影響されるのは小脳の一部である前庭小脳です。ここは目や耳の働きをコントロールしている重要な部位であり、障害されるとめまい・耳鳴り・難聴などの症状が出てきます。

アニリン色素はあまりに毒性が強いため、最近はアニリン色素の誘導体が使われていますが、その毒性がすべて消えているわけではありません。しかも、アニリン色素は一度体内に吸収されると排泄されにくい性質があり、毛染めをくりかえすほど、健康被害の危険性は高まっていくと考えらます。

過去二回(昭和36年11月8日、昭和53年8月6日)、かつての厚生省薬務局から警告が出されていますが、いまだにその危険性への認識が低く、白髪染めだけでなくおしゃれ染めの染料が多数販売されているのが現状です。

医師選びのポイント

めまいを克服するための重要な第一歩は、信頼できる医師との出会いです。めまいの原因は多岐にわたるだけに診断も難しく、治療も一筋縄ではいきません。そのため、めまいに苦しむ患者さんと正面から向き合おうとする医師は、残念ながらごくわずかです。しかし、正しい診断なくしては、適切な治療を始められません。

最近では、専門の「めまい外来」を設ける病院が増えてきました。ほとんどは耳鼻咽喉科や内科の特殊外来となっています。めまいの場合、ふつうの耳鼻咽喉科や内科よりも、めまい外来への受診をお勧めします。近ごろは多くの大学病院がこの外来を設けるようになりました。ただし、耳鼻科の内部にあるめまい外来は、脳の分野に弱いところもあることを気にとめておいてください。

所詮は何科やどの病院ではなく、「誰に診てもらうか」が一番大切です。耳鼻科、内科、神経内科、脳外科、眼科などの横断的な知識・技術を使ってめまいを治療する医師を、ご自身の目で選んでください。ポイントは「いかに問診を大事にしているか」です。めまいの発症には、体質や器質的なものだけでなく、環境や社会的な要因、過去の病気・ケガなどが複雑にからんでいます。めまいの原因を突き止めるには、踏み込んだ質問がかかせません。経験豊富な専門医による徹底した問診がめまい治療の基本なのです。

問診によってめまいの原因をほぼ推定できたら、それを確定させるために必要な検査を行います。めまいの検査は、患者さんに苦痛を与えるものが多く、必要最小限にとどめなければいけません。詳細な問診によって原因をある程度しぼりこみ、必要な検査だけを選んで行っているか。これも医師選びのポイントとなるでしょう。

めまいの急性期の治療

めまいの急患に対しては、医師はまず目を見ます。めまい発作時、目が振れる「眼振」という特徴的な症状が現れるからです。その症状にあわせて、患者さんの耳に冷水もしくは温水を注ぎます。すると一時的ですがめまいが治まります。

この応急処置の作用時間はわずか10~15分間ほどですが、患者さんや家族の安堵感は大変なものです。その間に、症状の要点をすばやく患者さんから聞き出し、次の治療を行います。

一般に内耳や前庭神経の疾患では、抗ヒスタミン剤やフェノチアジン系薬物、スコポラミン、吐き気止めが有効です。鎮静剤や催眠剤も心身の安静を保つうえで効果があります。100~250ミリリットルの7パーセントの重曹水を静脈注射する治療法もよく効きます。ただし、この治療法は腎臓の機能が低下している患者さんは受けられませんので、該当する人は医師に必ず伝えてください。

一方、脳からくるめまいの場合、とくに血栓症や塞栓症などの脳梗塞では、低分子デキストランにウロキナーゼという薬剤を加えた静脈注射が効果的です。この薬には、血管に詰まった血の塊(血栓)を溶かす働きがあります。

脳出血の場合は、止血剤や痙攣を鎮める薬を使います。重症な患者さんには、五パーセントの炭酸ガスを混ぜた酸素吸入も必要です。

脳幹網様体の働きを助けるために、CDPコリンや塩酸メクロフェノキサート製剤の静脈注射も有効です。ちなみに脳幹網様体とは、生命センターである脳幹の一部であり、筋の緊張的運動や、意識・覚醒などに関係している器官です。

また、血圧に異常がみられるときには、降圧剤や昇圧剤も必要になります。ただし、これらを使う場合には、慎重な診断が肝要です。

めまい慢性期の治療

慢性期の治療や再発予防には、心身医学的な治療、薬物療法、物理療法、手術、社会復帰のための治療、生活指導などが行われます。

めまい発症の裏には、過度のストレスの蓄積がみられることがほとんどです。社会復帰のためには、原因疾患の治療とともに、心身医学的・精神医学的な治療が必要となるケースも多々あります。

カクテル療法

めまい治療の大きな柱の一つが薬物療法です。薬物療法では、めまいや吐き気を抑えるありふれた対症療法と同時に、もう次に発作を起こさないという根本療法の同時進行が重要です。

それには、めまいを起こすあらゆる要因を洗い出し、それぞれに適した薬を処方する必要があります。たとえば、血圧の調整、血液循環の改善、精神神経の安定、神経の賦活、自律神経の安定など、めまいを全身的な疾患ととらえ、原因や病期に応じてさまざまな内服薬の種類や量を調整していきます。この一人一人の症状に応じて処方するオーダーメイドの薬物療法を、私たちはカクテル療法と呼び、めまい治療の基本としています。

これは、メニエール病や突発性難聴など内耳性のめまいでも同様です。内耳という局所だけを見ていても、全身の状態を整えない限り快方には向かいません。一つの症状を克服するには、背景にある複数の要素を同時に改善する必要があるのです。

なお、精密な検査によって原因や病名が明らかにならず、「異常なし」と診断されても、経過に注意をはらってください。長い目で見て安全かどうか油断せず、数カ月後に専門医を再び訪れるくらいの用心深さも必要です。

中耳腔注入療法(鼓室内注入療法)

耳からくるめまいに対しては、鼓室内注入療法(中耳腔注入療法)があります。水性のステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)を中耳に流し込み、その奥にある内耳に薬液をしみこませます。耳からくるめまいは、内耳の異常な興奮が脳に伝わって起こっているため、水性ステロイド剤でその興奮を抑えることによって、めまいの症状を軽くできるのです。

具体的な治療法は次の通りです。

1.長針をつなげた注射器に薬液を注入。鼓膜に注射針を指し、5~10秒ほどかけて、中耳に薬液をゆっくり流し込む(鼓膜に針を刺す際、チクッとした痛みがあるが、ふつうの注射と同じ程度と思ってよい)。
2.中耳は空洞になっていて、その中耳腔とのどは耳管でつながっている。そこで、薬液がのどに流れ出ないよう、患者さんには呼吸を止め、ほおをふくらませ、鼻先を上にして約1分間そのままの姿勢を保ってもらう。
3.薬液を注入した方の耳に向かう、水平回旋混合性の眼振をともなう軽いめまいが起こる。そこで、注入側とは反対の耳を下にして、しばらく上を向いて座っているか横になって休む。なお、両側に注入した場合は仰向けになる。

1回の治療はこれで終了。1~2週間ごとに計3~4回くりかえすのが1クールで、多くの場合はこれで効果が現れます。ただし、症状によっては三カ月後に再度1クール行うこともあります。

水性ステロイド剤を使った中耳腔注入療法では、効果も予後も良好です。内耳からくるめまいのうち、約八割前後の患者さんによい結果が出ています。同時に、ほとんどのケースにおいて、耳鳴りや耳の塞がった感覚も改善されます。現在、水性ステロイド剤を使った中耳腔注入療法は欧米でも広く行われていて、ステロイド・ターゲット法とも呼ばれています。

生活改善のポイント

めまいの克服において最も重要なのは生活習慣の改善(食生活や運動)であり、二番目が自己節制、三、四がなくて第五が薬です。どんなによい薬を飲んだところで、生活が乱れ、自己節制ができていなければ、めまいを治すことはできません。患者さんは「病気を治すために、自分が最善の努力をする」という覚悟を持ってください。その一歩として、次のことを念頭に生活を送っていただきたいと思います。

【朝】
起床後は海洋深層水などミネラル分の豊富な水を1杯飲み、朝食には食物繊維の豊富な野菜をバランスよく食べ、快便を心がける。ラジオ体操や散歩など、朝の時間に運動を取り入れると体調の改善にも効果的。電車やバスではなるべく立っていることが、手軽にできる平衡訓練になる。

【昼】
昼食は腹八分目に抑え、できればもう一度散歩に出かけよう。カフェインの含まれる飲み物は適量にとどめ、ひじ枕でのうたた寝やその姿勢でのテレビ観賞は厳禁とする。

【夜】
入浴は水を一杯飲んでからとし、風呂はぬるめのお湯に胸の高さまで入る。夕食は腹七分目にし、塩分・脂・肉類・刺激物・香辛料は控え、青魚や野菜をバランスよく食べる。就寝前にも1~2杯の水を飲み、血液凝固剤を服用している人はこれを忘れずに飲むこと。なお、5~10分間ほど両足のふくらはぎを軽くもみほぐしてから寝るとよい。
以上の注意事項に加えて、めまいの治療中は喫煙は厳禁。お酒もめまいが治るまでは極力控えるようにしてください。飲酒は脳幹や小脳の働きを麻痺させるのでよくありません。