第8神経とは

耳鳴りとは…

体の内外に正常な音源がないにもかかわらず、耳の中でなんらかの音が生じる症状が耳鳴りです。耳は構造上、外耳・中耳・内耳にわけられ、耳鳴りの原因は85~90%が内耳にあります。ただ近年、脳の障害によって頭蓋内で起こる頭鳴りを訴える人が増えました。主な原因は虚血、つまり脳内の血のめぐりの悪化と考えらえます。

耳鳴りはめまい同様、患者さんにとって非常に苦しい症状です。ところが、医師にとって治療しにくい症状のため、「気にしないように」などといわれ、それが患者さんをさらに追い詰めるというケースも多々あります。耳鳴りは不治の病ではありません。改善のためには早期に適切な治療を行うことが不可欠です

 

1:近年の耳鳴り事情
2:「自覚的耳鳴り」と「他覚的耳鳴り」
3:耳からくる耳鳴り
4:脳からくる頭鳴り
5:全身の疾患からくる耳鳴り
6:耳鳴りの音の種類
7:耳鳴りの問診
8:耳鳴りの治療
9:耳鳴りと中耳腔注入療法(鼓室内注入療法)
10:TRT療法
11:マスカー療法
12:耳鳴り克服のための5原則


近年の耳鳴りの事情

日本人の約17%が耳鳴りを経験したことがあり、そのうちの5%が生活に支障をきたすほどの強い耳鳴りに悩まされているという報告があります。なお、高齢者に限ると、33%もの人に耳鳴りがあるといいます。

数年前まで、耳鳴りを訴える患者さんは高齢者が中心でした。ところがここのところ、その傾向が大きく変化してきています。小型のミュージックプレーヤーが若者を中心に普及するともに、10代20代の耳鳴り患者も増えました。イヤホンを耳にはめる若者の姿は街なかでも電車内でもよく見かける光景ですが、イヤホンを装用して大きな音量で長時間音楽を聞いていると、強い音圧と振動を耳が直接受けることになります。すると聴覚器が傷つき、耳鳴りを引き起こすのです。また、イヤホンで音楽を聴きながら一晩眠ったら、翌朝、耳鳴りが始まっていたというケースも珍しくなくなりました。さらに、携帯電話で長話をしていて耳鳴りがするようになったというケースも起こりえます。

耳に直接音や振動を入れるという行為は、危険をともなうということを認識してください。


「自覚的耳鳴り」と「他覚的耳鳴り」

本人にしか聞こえないものを「自覚的耳鳴り」、他人にも聞こえるものを「他覚的耳鳴り」と呼びます。

自覚的耳鳴りの場合、体の内部にも音源がないため、聴診器を当てたところで、他人にはその音が聴こえません。耳の病気が主な原因ですが、神経や脳の障害、高血圧症、動脈硬化症、糖尿病、腎臓病などの病気からくることもあります。ストレスの蓄積や更年期障害なども原因になります。ちなみに耳鳴りの大半が、この自覚的耳鳴りです。

他覚的耳鳴りの場合、体の内部に音源があり、聴診器を当てれば他人もその音を聴けます。心臓の鼓動や血液の流れる音など、生命の維持活動にかかわる音が多く、「スーッ、ハァー」という呼吸音が耳鳴りとして聞こえることもあります。


耳からくる耳鳴り

耳鳴りはめまい・難聴とセットで現れることが多く、この場合は耳の病気が疑われます。耳からくるものは、命にかかわる病気が隠れている可能性はほとんどありません。しかし、放置しておくといずれ聴力が失われ、がんこな耳鳴りに悩まされるようになりかねません。耳鳴りの克服には、早期治療が何よりも大切です。

耳からくる耳鳴りには、主に以下のような病気があります。

メニエール病
突発性難聴
外リンパ
耳性帯状疱疹
慢性中耳炎
内耳炎
梅毒性内耳炎
耳管狭窄症
耳管開放症
耳硬化症
鼓膜炎

脳からくる頭鳴り

耳鳴りに対して脳内から生じるものを、専門的には区別して頭鳴りと呼びます。頭鳴りは脳に腫瘍や梗塞などの病変が生じて起こるものと、脳内の血のめぐりが悪くなって起こるものがあります。いずれも脳という生命維持に重大な部位に生じた異変ですので、よくよく注意が必要です。

脳や神経からくる頭鳴りには、主に以下のような病気があります。

聴神経腫瘍
小脳橋角部腫瘍
前下小脳動脈瘤
脳の虚血

全身疾患からくる耳鳴り

耳鳴りは、全身の疾患からくるものもあります。たとえば、糖尿病や腎臓病などの疾患を悪化させると、内耳に影響が及びやすく、耳鳴りやめまい、難聴を起こしやすくなります。また、動脈硬化症が進行すると、脳に血管障害が生じ、耳鳴りやめまいに悩まされるようになります。

高血圧や低血圧が耳鳴りの原因となることも少なくありません。高血圧の人の耳鳴りは、鼓膜の裏を通る内頸動脈が原因となることが多く、この場合、主に血液が流れる音が耳鳴りとなって聞こえます。一方、内耳疾患の患者さんの多くには低血圧が見られ、この場合は主に「キーン」「ジー」などの耳鳴りが生じます。

耳鳴りの音の種類

耳は外側から外耳・中耳・内耳という3つの部分からなります。音は外耳から中耳まで空気の振動によって伝わり、内耳で電気信号に変えられてから聴神経を通って大脳に届きます。

こうした聴覚の構造のうち、どこに障害があって耳鳴りが生じているのか。これは耳鳴りの音の種類によって、ある程度は予測できます。たとえば、キーン、ピーン、カチカチなど金属音や電子音に似ている高い音色の耳鳴りは、内耳や聴神経などの障害が疑われます。ブーン、ゴー、ボーなど低い音色の耳鳴りは、中耳などの障害が多いものです。一方、キンキン、ザーザーなど脈と一緒に音が鳴る拍動性の耳鳴りもあります。この場合は、脳血管障害の一部症状の可能性が出てきます。

ただし、音のタイプだけでは障害部位を限定できません。原因となる部位は外耳から脳へと広範囲に及び、高血圧や低血圧、糖尿病などの全身性の病気やストレス、頭部の外傷、騒音、薬物中毒なども関係してくるからです。

耳鳴りの問診

めまいと同じく、耳鳴りの診療にはまず問診が欠かせません。生活環境や社会的要因、過去の病気なども発症に関係しているからです。そのため、医師は患者さんに過去のことを根掘り葉掘り聞き出すことになります。たとえば、毛染め液を長年くりかえし使用してきたか、農薬や塗料、シンナーなどを扱う仕事の経験があるか、パチンコやクラブ、ライブハウスなど騒音の鳴り響く場所によく行くのか、子宮筋腫や貧血の経験はあるか、高齢の方ならば戦時中にマラリアに感染したことがあるかなど、こうした質問のすべてが耳鳴りの原因になりえます。

しかも、耳鳴りの表現法は、「高い音」「低い音」「鐘の鳴るような音」「虫の声」「金属音」「雨の降る音」など患者さんによってまちまちです。そこから正しい答えを導き出すには、まずは患者さんとの対話が大切なのです。

そこで耳鳴りの問診は、
耳鳴り自体に関すること
難聴やめまいなどの随伴症状について
職業やアレルギー、薬物の副作用による既往歴など、耳鳴りの原因について
という3つをポイントに行われます。

耳鳴りも医師にとって診断と治療が非常に難しく、敬遠されやすい症状でもあります。信頼できる医師を探すには、以上のような問診を熱心に行っているかを基準にされるとよいと思います。

耳鳴りの治療

耳鳴りの治療は、まず原因となる病気を治すことから始めます。耳は、外耳・中耳という伝音系と内耳・聴神経などの感音系とに大別されます。このうち、伝音系の病気は治療法が確立されており、この場合の耳鳴りは比較的治りやすい傾向にあります。伝音系の耳鳴りは、「ガー」「ザー」「ブーン」など低音のものが一般的です。

一方、感音系の病気は治療が大変難しく、そこからくる「キーン」「ジー」などの高音の耳鳴りは治療が困難となります。そして、耳鳴りを訴える患者さんの85~90%が内耳からくるもの、つまり感音系の耳鳴りなのです。

耳鳴り治療の難しさは、正常な音源がないのになぜ音として耳鳴りを認識するのか、そのメカニズムが現段階で解明されていないことにあります。耳鳴りの原因である病気を治しても、耳鳴りまで消し去れないケースが多いのはこのためです。

現代医療において、耳鳴りをゼロにすることはとても難しいといえます。ただし、治療によって軽くすることはできます。適切な治療法を選び、耳鳴りが気にならないところまで改善することが、耳鳴り治療の大原則です。

耳鳴りと中耳腔注入療法(鼓室内注入療法)

伝音系の耳鳴りも感音系の耳鳴りも、耳からくるタイプのものに対しては中腔注入療法が効果的に働きます。(中耳腔注入療法の方法については「めまいとは」の項目で紹介しています)。

耳鳴りの治療の場合、使用する薬液には3つの種類があります。まず、第1選択として水性ステロイド剤を使います。耳鳴りの程度が強くじゅうぶんな効果を得られない場合には、第2選択としてステロイド剤にメコバラミン(活性型ビタミンB12)を混合した薬液を使用します。これらの方法は外来で行うことができ、患者さんの負担が少なくてすむという特長もあります。

ただ、これでは思うような効果の出ないときには、第3選択肢として麻酔剤を中耳腔に注入します。この方法は激しいめまいと吐き気をともなうため、入院が必要となります。そのぶん、患者さんの負担も大きくなりますが、頑固な耳鳴りに対して効果的な方法です。

TRT療法

最近、アメリカから導入されたTRT療法という治療法が注目を集めています。TRTとは、Tinnitus Retraining Therapy(耳鳴りを順応させる治療法)の頭文字を取ったものです。医師によるカウンセリングを行うとともに、「心地よい」と感じるノイズを患者さんに聞かせることで、不快な耳鳴りを意識しなくなるよう脳を順応させようとする療法です。耳鳴りを軽減させるのではなく、脳に耳鳴りを慣れさせることが治療の目的となります。脳からくるめまいなど、治療が難しいケースに適しているといえるでしょう。

マスカー療法

マスカー療法も、音を使って耳鳴りを制する方法です。この療法では、患者さんの耳鳴りに似た周波数で、耳鳴りを完全に消す大きさのノイズを聞かせることによって、耳鳴りの音をさえぎります(マスキング)。ノイズ音を消したあとも、耳鳴りがしばらく消えていることが多く、就寝前に行えば耳鳴りに邪魔されずに入眠できるようになります。

耳鳴り克服のための5原則

耳鳴りは体調や心の状態に左右されやすく、心身の状態が優れないと耳鳴りもひどくなります。そこで症状を軽くするためには、適切な治療とともに生活習慣を整え、心身の状態を整えることが何よりも大切です。そのポイントを5つにまとめましたので、ぜひ実践してください。

1.生活のリズムを整える

生活のリズムを整えることがストレスに強くなる最良の策です。毎日を一定のリズムのなかで過ごしていると、不測の事態にも動じない強さが心身に備わります。
大切なのは「睡眠」「食事」「仕事・学習」「運動・遊び」「休養」の5つをバランスよく行うこと。どこかに偏ると必ずストレスが生じて心身に影響します。とくに仕事や学習に時間を費やすあまりに、睡眠・運動・遊び・休養の時間を削る人が多いものですが、そうした生活は健康を乱し、耳鳴りを悪化させかねません。
私たちの生活は1日6~8時間の睡眠と3回の食事を中心に回っています。このリズムを大切に生活すると、心身の状態を整える自律神経の働きも活性化します。そこでまず大切なのは、質のよい睡眠を心がけること。遅くてもその日のうちに眠り、毎朝一定の時刻に起きる習慣を守ってください。もし耳鳴りが邪魔して寝つけないのならば、静かな音楽や波の音・小川のせせらぎ・雨音などの自然界の静かな音を流してみてはどうでしょうか。これらの音には睡眠を誘う効果がありますし、耳鳴りの音をまぎらわすこともできるでしょう。ただし、イヤホンやヘッドホンをしたまま眠るのは厳禁です。
また、寝る前にぬるめのお風呂に胸の高さまでゆったりと入ることも、睡眠の質を上げる効果的な方法です。ただし、熱い湯と長湯は危険をともなうので、とくに高齢者は避けてください。
さらに寝る前の食事は睡眠の質を低下させます。夕食は就寝2時間前までには済ませておくことが大事です。

2.毎日の食事に気を配る

バランスよい食事を心がけてください。なかでもビタミンB群は耳鳴りの改善に効果の期待できる栄養素です。とくにビタミンB12は中耳腔注入療法や薬物療法など耳鳴りの治療で積極的に使われている成分です。食品ではアサリ、ウルメイワシ、サンマ、シジミ、スジコ、レバーなどに多く含まれています。
また、ビタミンB1はだるさやイライラなどの改善によい成分です。これは豚ヒレ肉、鶏レバー、ウナギ、ソバ、ご飯などに含まれます。ビタミンB2は脂質の代謝をうながし、疲労や老化の原因となる過酸化脂質を分解する成分で、ウナギや豚レバー、卵、干しシイタケなどに豊富です。さらに、ビタミンB6は免疫機能を高める力があり、イワシ、カツオ、サケ、サンマなどの魚類や小麦胚芽に多く含まれます。
一方、ストレスが耳鳴りを悪化させていると感じるときには、ビタミンCを多めにとるようにしましょう。イチゴ、グレープフルーツ、ミカン、カキ、キウイなどの果物や、ブロッコリー、パセリ、菜の花、ジャガイモなどの野菜に含まれます。
なお、カルシウム不足は骨を弱めるだけでなく、神経が高まり、ささいなことでイライラするようになります。ストレス社会に生きる現代人には、カルシウムの摂取がとくに大切ともいえるでしょう。
なお、3度の食事は毎日一定の時刻にすることも大切なことです。

3.酒・タバコを控える

深酒は耳の健康においてもよいことは何もありません。晩酌を楽しむとしても、適量を超えないようにしてください。また、耳鳴りで眠れないときなど、適度のアルコールで睡眠を誘うという方法もあります。ただし、飲酒によって耳鳴りが強くなる人もいますので注意しましょう。
タバコは百害あって一利なし。耳鳴りの治療を損なわせる作用も働きます。耳鳴りを克服したいと思うならば、強い覚悟をもってタバコはやめるべきです。

4.騒音・振動にさらされない

騒音や強い振動を耳に受けると、聴覚器を傷つける原因となります。こうした音響外傷からくる耳鳴りは、現代医療で最も治りにくい耳鳴りです。イヤホンやヘッドホンの長時間の使用や携帯電話での長電話などはできるだけ避けてください。パチンコ店やゲームセンター、ライブハウスなど大音響のなかに長時間いることも、耳鳴りの引き金となります。
工事現場や工場などで働いている人は、耳鳴りや難聴になりやすいものです。騒音や振動の刺激を直接耳に受けないよう耳栓をするなど対策を立てましょう。

5.毛染め液やシンナーなど、薬品の使用に注意する

めまいの項目でも述べましたが、毛染め液の害が耳鳴りを起こすことがあります。すべての人がその害を受けるとは限らず、体質によります。ただ、自分の体質がどうなのかは症状が出て初めてわかること。耳鳴り・めまい・難聴を防ぐためにも、毛染め液の使用には慎重になるべきです。
また、シンナーも耳に障害をもたらす薬品です。個室でプラモデル作りに熱中していて耳鳴りを発症した子供は少なくありません。接着剤や塗料に含まれるシンナーが原因です。女性が使うマニキュアや徐光液にもシンナーは含まれます。鉄サビをとる作業やペンキ塗り、ドライクリーニングなど、多くの仕事でもシンナーは使われています。このようなシンナーの含まれる薬剤を使用する際には、換気をしっかりと行わなければいけません。
なお、除草剤も耳鳴りの原因となる薬品の一つです。大量の除草剤を扱う農業の人はじゅうぶんに気をつけてください。