第8神経とは

難聴とは…

難聴とは「聞こえない」あるいは「聞こえにくい」状態を指します。一般には、30デシベル(dB)以上の音が聞こえないと難聴と診断されます。具体的にはひそひそ話程度の音量です。

現代の生活環境は、聴覚器にとってとても苛酷です。過剰なストレスは聴覚器に大変な負担を強いりますし、食生活の欧米化や過激なダイエット、生活環境の都市化、運動不足なども聴覚器に影響を及ぼします。聴覚器はそれほど繊細な器官であり、すべての現代人にとって難聴は無縁の障害ではありません。

しかも困ったことに、現代の医学では、失った聴力を取り戻すのは大変難しいものです。聴力に不安を感じたら、早期の対策が不可欠です。

 

1:「きく」とコミュニケーション
2:高音部が聞こえないと人は活力を失う
3:伝音性難聴とは
4:感音性難聴とは
5:混合性難聴と機能性難聴
6:デシベルとヘルツ
7:難聴のレベル
8:難聴のパターン
9:難聴治療の3つの柱


「きく」とコミュニケージョン

健聴者は「きく」を中心にコミュニケーションを図ります。耳に入ったさまざまな音を「聞く」、その音が脳に伝わり思考が働いて「聴く」、相手にものを尋ねて「訊く」。「聞く」「聴く」「訊く」という3つの「きく」がグルグルと回ってコミュニケーションは成り立ちます。つまり、健聴者にとってコミュニケーションとは「きく」こと、すなわち聴覚が中心にあるわけです。

もちろん、コミュニケーションの手段は一つではなく、手話や筆談も重要なツールです。しかし、これまで「きく」を中心にコミュニケーションを図ってきた人が、聴覚器に支障をきたすとさまざまな問題が浮上します。音声をスムーズに聞き取れないと脳が混乱し、相手に適切な返事をすることも難しくなるからです。

聞こえることがあたりまえのときには、聴覚に意識を向けることもありませんが、聴力にひとたび問題が生じると、健全な社会生活がおびやかされるほどの大きな不安を招きかねないのです。


高音部が聞こえないと人は活力を失う

「老いは五感の衰えからくる」といわれますが、いつまでも若々しく暮らすうえで、聴覚の果たす役割は五感のなかでもとくに重大です。

加齢と難聴のかかわりは深く、お年寄りの3人に2人が難聴というデータもあります。高齢社会の日本において、難聴は決して人ごとではありません。その高齢者の老人性難聴は、高音部を聴き取りにくくなるのが主な症状です。
高音部は人に活力を与える音域です。高音部を中心に使った曲を聴くと、体が自然と動き出し、一緒に歌いたくなるような気分になります。これに対し、低音部を中心とした曲はしみじみとした感慨を生み出しても、気分が高揚するような感覚は起こさないでしょう。

高音の音楽を聴くことは、聴覚を磨き、脳を活性化させ、心身ともにいきいきと輝かせる効果があります。実際、高齢者を対象とする音楽療法では、高音部を刺激する音楽を使い、それにあわせてリズムをとったり、体を動かしたりします。すると、参加者の顔がみるみると明るくかわってきます。

聴覚は人にエネルギーを吹き込む感覚でもあるのです。


伝音性難聴とは

難聴には主に、伝音性難聴と感音性難聴という2つのタイプがあります。

耳は構造的に外耳・中耳・内耳の3つにわけられます。このうち外耳・中耳は、外界の音声を空気振動として伝える部分であり、内耳は中耳から受け取った音声を電気信号に変えて聴神経に伝え、脳へと送る部分です。

伝音性難聴は、外耳や中耳など音を伝える部分が障害されて起こる難聴です。症状の主な特徴は、耳のつまった感じがあり、大きな音は聞こえるが通常の音は聞こえにくいこと。自分の声はよく聞こえるのも特徴です。外耳・中耳の疾患は治療法もほぼ確立されており、聴力の回復も比較的スムーズです。また、治療による改善が難しいケースでも、補聴器を使えば聴力は上がります。

ただし、適切な治療を行わずに放置してしまうと障害は内耳にまで広がり、感音性難聴をも併発しかねません。伝音性難聴の症状に思い当たるところのある人は、この段階で早めの治療を始めることが大切です。

なお、伝音性難聴を起こす主な病気は以下のとおりです。

外耳道病変(耳垢塞栓、サーファーズ・イヤ〈外骨腫〉、外耳道真菌症など)
鼓膜炎
中耳炎
耳硬化症
外傷性耳小骨離断

感音性難聴とは

感音性難聴とは、内耳や聴神経、中枢神経など音を感じる部分が障害されて起こる難聴です。音を感じ取る部分が障害されているため、自分の声もうまく聴き取れず、音に対する分析力も低下します。高音部が聴き取りにくくなるのも特徴です。

感音性難聴を起こす病気はさまざまですが、最も多いのは内耳の蝸牛に異常が生じるケースです。この部分は機能が一度低下すると回復が難しいため、治療による聴力の改善も困難です。しかも、補聴器を利用しても、聴力の向上は望めないケースが少なくありません。高齢者の3分の2が難聴というデータもありますが、その大半はこの感音性難聴です。また、工場や工事現場など騒音のなかで働いている人や、イヤホンやヘッドホンで大きな音を聴くことの多い人、パチンコ店やゲームセンター、ライブハウスなど大音量の鳴り響く場所によく行く人なども蝸牛が傷つきやすく、感音性難聴になりやすいので注意してください。

なお、感音性難聴を起こす主な疾患は以下の通りです。

メニエール病
突発性難聴
内耳炎
梅毒性内耳炎
薬物中毒
音響外傷
聴神経腫瘍
前下小脳動脈瘤
老人性難聴

混合性難聴と機能性難聴

混合性難聴とは、伝音性難聴と感音性難聴が一緒に起こるタイプです。最初は伝音性難聴だけだったのが、適切な治療を受けずに放置していたために、感音性難聴にまでいたってしまうケースは珍しくありません。この場合、伝音性難聴の部分は治療で回復するケースが多いものの、感音性難聴の改善は難しくなります。

機能性難聴とは、聴覚器には異常がないのに聞こえていることを自覚できない難聴をさします。原因は多くの場合、心因性すなわち精神的なものと考えられます。現在のストレス社会を反映して、このタイプの難聴になる子供が多くなっています。

デシベルとヘルツ

音にはデシベル(dB)とヘルツ(Hz)という2つの単位があります。デシベルは音の強弱を表わし、ヘルツは音の高低(周波数)を示します。難聴の検査では、デシベルの値から難聴のレベル(程度)が導き出され、デシベルとヘルツの両方の値から難聴のパターンがわかります。

難聴のレベル

難聴のレベル(程度)は、「軽度難聴」「中等度難聴」「高度難聴」「重度難聴」の4段階にわかれます。これはオージオメータという検査機器を使い、どの程度の強さまで聴き取れるのかを調べて確定します。それぞれの特徴を紹介しますので、自分の聴力のレベルを知る目安にしてください。

1.軽度難聴(30~50dB、ささやき声が聴き取りにくい)

面と向かっての会話に困難はないものの、ささやき声や雑音の多い場所での会話、会議などでの聴き取りに不自由を感じます。

2.中等度難聴(50~70dB、大きな声ならば聴き取れる)

大きな声での会話ならば不自由はありませんが、ふだんの会話や会議中などで相手が何を話したのかわからないことが増えます。中等度難聴は補聴器の対象となります。なお、伝音性難聴の場合、70dB以上にはなりません。

3.高度難聴(70~90dB、耳もと大きな声で話されれば聴き取れる)

面と向かった会話でも聴き取れないことが多くなります。ただし、耳もとで大きな声で話してもらったり、補聴器をつけたりすれば、聴き取ることができます。

4.重度難聴(90dB以上、電話のベルが聞こえない)

電話のベルが聞こえなくなり、補聴器をつけても聴力が上がりません。きわめて重度な難聴です。なお、100dB以上の難聴を聾と呼び、これが左右両方の耳にいたると全聾となります。

難聴のパターン

オージオメータという検査機器を使った聴力検査では、結果がオージオグラム(聴力図)というグラフで表されます。これを見ると、難聴のパターン(型)がわかります。
難聴のパターンは主に4つあります。低音部が障害される「低音障害型」、中音部が障害される「谷型」、高音部が障害される「高音障害型」、音がほとんど聞こえない「聾型」です。

1.低音障害型の特徴

日本は母音文化ですが、母音の音の高さは250~1000Hzほどの低音です。低音障害型の場合、難聴が一時的なものであれば会話にさほど不自由は感じません。ただし、難聴が長期になると、母音が聴き取りにくくなっているので、全体的に何を話しているのかを理解できなくなっていきます。また、このパターンの場合、「聞こえにくい」というより「耳がふさがっている」という感覚があります。そのため、「耳アカがつまっているのではないか」という訴えが多くなります。

2.谷型の特徴

ふだんの会話で中心となるのは、500~2000Hzという中音部です。この部分が障害される谷型の場合は、全体的に何を話しているのかわかりにくくなります。ちなみに谷型とは、オージオグラムがV字型のカーブを描くことからそう呼ばれています。
突発性難聴や聴神経腫瘍などの疾患は、谷型の難聴になりやすくなります。

3.高音障害型の特徴

日本語の子音は周波数の高い音です。高音部が聴き取りにくくなる高音障害型の場合は、会話の内容はある程度わかるものの、子音がわからないので聴きもらしが増え、助詞がおかしくなるという問題も生じます。
このパターンの難聴は、老人性難聴や薬物中毒、音響外傷、頭部外傷などが主な原因となります。

4.聾型の特徴

音がほとんど聞こえません。聾型の主な病気には、内耳炎、突発性難聴、あるいは生まれつき聴覚器に問題がある先天性奇形などがあげられます。

難聴治療の3つの柱

難聴の治療は、薬物療法、手術、補聴器の装着を3つの柱に進められます。どの方法を用いるかは、難聴のタイプ・レベル・パターンにもとづいて選択されることになります。たとえば、慢性中耳炎が難聴の原因ならば薬物療法と手術の両方が行われ、老人性難聴ならば補聴器をつけて聴力をカバーします。補聴器は使用をいやがる人が少なくありませんが、今ある聴力を最大限に生かすうえで不可欠なものです。現在は性能がよく、サイズも小型化してめだたなくなり、形もいろいろなものがあります。自分にあったものを選んでみるとよいでしょう。

また、治療の難しい感音性難聴に対しては、内耳が原因となっているケースに限り、中耳腔注入療法がよい成績を上げています。難聴の治療においても水性ステロイド剤を使用しますが、じゅうぶんな結果を得られない場合はメコバラミン(活性型ビタミンB12)を加えます。これでも満足できる効果がない場合には、入院のうえ麻酔剤を中耳腔に注入します(中耳腔注入療法の方法は「めまいについて」の項目で紹介しています)。